旧約聖書の最初の書物である創世記には、6章から10章にかけてある農夫の物語が記されています。この農夫は、世界最古のブドウ栽培とワイン醸造の技術を得ていた人物でもありました。
農夫となる以前、彼は巨大建造物のプロジェクト推進者でもありました。もしこのプロジェクトの価値を現代の日本円で換算したなら、その事業規模は少なく見積もっても100億円以上のものであったに違いありません。この人物の子孫の代に起こった、公共事業を実施し象徴的な高層タワーを町の中心に据えるという一過性の夢となってしまった都市建設ブームとは対照的に、彼の使命でもあった建造物は多くの生命の安全と保護を目的とした現実的な性格のものであり、その推進期間も長期に及びました。
余談ですが、ある米国の裕福な慈善事業家が日本有数の避暑地に3階建ての1万坪近い広大な別荘を建設中とのうわさがあり、まもなく完成するようです。完成後は、多くのメディアが取り上げて大きなニュースとなるかも知れませんが、聖書に描かれた当時のプロジェクトは、この避暑地の別荘建設よりもはるかに大きな意味を持っていたはずです。
この人物が、必ず起こると確信していたその巨大災害の発生に備え、建造物にはその内側にも外側にもタールが塗られていました。後のワイン醸造には、この膨大な量の防水材を準備する際に培われた効率的な樹液の蒸留技術もまた大いに生かされたのかも知れません。
当時の世界において、この農夫がかつてライフワークとして取り組んだ巨大建造物の中に入ることによって生き残ったもの以外は、人も動物も鳥も、地上にあったあらゆる命が激しい嵐の中ですべて消し去られてしまいました。
さて、プロジェクトを共に推進してきた仲間として、彼のパートナーである妻のほかには、運命共同体また家族としての三人の息子と嫁たち、そして多くの種類の動物、鳥や植物などの生き物がいました。創世記には、宇宙の起源、人類の起源、そして約束の民としてのユダヤ人やイスラエルを中心とした特定の国々のことなどが語られていますが、ここでは全世界の民族と国々がどのように起こったかを見ることができます。なぜなら、この三人の息子たちから、現在の全世界の民族と国々のすべてが生み出されたからです。
全世界に及んだ人類で最初の巨大災害からの救出劇の後、彼の長男からは、中東を含むアジアの民族とその国々、次男からは、エチオピア、エジプトといったアフリカ大陸に住む民族とその国々、そして三男からは、ロシアやヨーロッパの民族と国々が子孫として生まれていきました。
その当時は奴隷の身分となっていた長男の子孫であるイスラエルの民族として生まれながら、次男の子孫の民族文化の中、古代エジプトの王族の一人として教育を受けかつ様々な試みを受けた後に、聖書の最初の執筆担当者とされたモーセが、今から3千年以上も前に著した本著を通じ、その最初のわずか10章に記述された今から約5千年以上前のこれらの出来事が、私たちの目の前にある今日の世界の姿を、生き生きと非常に明快に、しかも端的に物語っていることは驚きです。この農夫の次男の末っ子はカナンという名ですが、彼の名で呼ばれる地(カナン人の領土、カナン地方、カナンの土地)は、本著内の言及のみでも50回以上を数えます。その後は奴隷として苦しみの中にあったイスラエル人がエジプトを出た後に目指した約束の地(広々としたすばらしい土地、乳と蜜の流れる土地)として、またダビデ王やソロモン王らが君臨した王国が建設された土地として、聖書全体を通じても重要な意味を帯びてきます。そして現代は、中東紛争の中心であるパレスチナ地方、世界の三大宗教の聖地があるエルサレム旧市街がある地域として、全世界の人々に大きな影響を与え続けているのは不思議という一語に尽きます。
この旧約聖書の物語は、現代の私たちにはどのようなメッセージを語りかけているでしょうか?
確かに、身代わりの犠牲によってのみ、罪のゆるしと義が与えられることを信仰によって深く理解し、その礼拝の実践を生活の中心としていたノアに対し、神は約束と契約のしるしとしての美しい虹を与えられました。
新約聖書が、このノアという人物を取り上げる際には、必ず登場する一つの概念があります。それは再臨と携挙です。これらは、終末の時代に必ず起こると預言されている出来事ですが、いつでも深刻な警告を私たちのすべてに投げかけています。
目を覚ましていなさい 人の子が来るのは、ノアの時と同じだからである。洪水になる前は、ノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていた。・・・ だから、あなたがたも用意していなさい。人の子は思いがけない時に来るからである。
マタイによる福音書 24章 37-38,44節
関連リンク
写真: Noah's Ark Stained Glass
映画「ノア 約束の舟」 公式サイト http://www.noah-movie.jp/
聖書:http://www.bible.or.jp/